新人教育
探偵社に勤めていたころ、新人教育係をよく仰せつかっていたんです。 探偵という仕事は向き不向きが極端にでるので、ただなりたいではなれないんですよ。 すくなくともオイラが勤めていた探偵社ではそうだったっすねぇ。 他の探偵社からのスパイも入社してくるし。 調査員だけじゃなく営業もだけれどね。 オイラの担当は調査だから調査員として使えるようにするんだけれど、仕事をしながら教えていくわけでかなり厳しい態度で接しなければならないですよ。 なにせお荷物なわけだから親切になんかできないわけです。 最初の1か月はやめさせるためにわざと辛い対応をしろと上からは命令を受けるけど、それでもついて来れば本格的に教える感じだったね。 募集は1人の枠でも10人くらい採用し、翌日には3人くらい来ない。 1か月後には1人になってるっていう寸法だけれども、一人も残らない時もよくあったよ。 昔、地方支社の新人をお預かりしたことがあって、その人はオイラより年上だったけど年齢の割には見た目はオッサン臭かった。 とりあえず、日々の調査に連れて行くのだけれど、「僕はシティーハンターになりたいんです!」なんて言うものだから、なんか教えるのがバカバカしくてとても嫌だったよ。 なんていうんでしょう、調査の基本てなんですか?ってその人からよく聞かれてましたが、べつにマニュアルがあるわけではなかったので説明のしようがないのですね。 あえていうなら普通に徹することなんですが、なにせシティーハンターを目指している人だから人の話を聞かないんです。 「探偵の極意を教えてください!」ばっかり言うんですわ。 ハッキリ言ってとてもウザかったさ。 で、たまにちょこっとテクニック的なことをすると大喜びで、「コレコレこれなんですよ、僕が知りたいのは!」 なんていうものだからなんか教えたくなくなりまして、上に頼んで地方に帰してもらいました。 その後地方支社の責任者に会う機会があって、その後の彼のことを尋ねたのですが、苛めすぎて辞めたそうです。 シティーハンターには絶対なれなかったでしょうけど。 変わったことをしようというのだから、とにかく変わった人が集まるんですよ。 10人が一人になり、3か月の試用期間を終えて社員になるのは更にほんの一握りでしたから、けっこう頻繁に募集していましたねぇ。 そんな流れの中で生き残った人たちの集団なわけだから、ある種の変人軍団ともいえて、何年も務めた変人中の変人、もう筋金入りの変人が教育するわけですから悪循環です。 ある意味、生きることを学べるわけです。 それでも最初は厳しかった(イジワルだった)先輩方も半年くらい経つと優しくなります。 それは受け入れるのに時間がかかるのではなくて、新人がオイラ達に合わせられるようになるからです。 だから、行動パターンが似てくるんだけれど、基本的にはみんなものぐさだから楽したい。 だから、少しでも楽ができる方法を追及するのですが、ベクトルを間違えるとサボりになるのは世の常ですね。 そんな中で仕事を成功させてくるのですからみんな大したものでしたな。